私が機械式時計を職業として生業とさせていただいたのは、1998年からで、
今年で26年目、約四半世紀の間で見聞き、触れて参りました当時の機械式時計の
トレンドや所見をお伝えしたいと思います。
私の回顧録の様なカタチになりますが、宜しければお付き合いいただけますと
幸いでございます。
1998年当時は現在と変わりませんが、ROLEXが最も強い人気でCartier,BVLGARIと
ブランド認知度、需要共にこの3ブランドが輸入ウォッチブランド代表格でございました。
そこに割って入る存在がフランクミュラーでございました。
当時のフランクミュラーの勢いは凄まじく、熱狂的な一大トレンドでございました。
上記の人気3ブランドとの比較は、新進気鋭の若手天才独立時計師という今では
そこまで珍しくはないフレーズですが、当時は独立時計師という存在は全く認知されておりませんでした。今までの日本市場におけるスイス時計の商品の傾向は伝統的な古典であるクラシックモデルか、ROLEXを代表するスポーツモデルの極端な2極化状態で
そこにどちらにも属さない第3勢力の様な存在として、台頭したのがフランクミュラーで
ございました。
なぜ、フランクミュラーが大流行したのか、私のあくまでも個人的な解釈ですが、
同社のアイコンであるトノーカーベックスの斬新な形状とモダンでお洒落でダイナミックなアラビックインデックスの文字盤とデザインが、とにかく刺さりハマりました。
目新しく、インパクトが有り、小難しい要素が無く非常にわかりやすい製品コンセプトでございます。90年代までは、機械式時計に精通している方は稀な存在で、
一般的には機械式の種類の判別もつかない方が多い時代でしたので、
それは既成概念では無い一種の革命でもございまして、シンプルな3針式の自動巻きで機械式時計を初心者の方にも使用しやすく、多用な材質、男女モデル共に細かなサイズ展開によるセミオーダー感で特別感を演出する戦略も巧みで、トノー型の形状は人間工学に基づいた自然な装着感とムーブメントのプラチナローター仕様で高級感を相乗させました。
この大きな流れで、コンキスタドールやクレイジーアワーといった革新的な大ヒット作を次々に創出されていきました。
当時は現在の様なSNSによる拡散ではなく、純然たる口コミで人気が拡大していきました。
上記の人気スーパーブランド3社に比べて、生ける伝説として存在感を発揮している
フランクミュラー氏の存在は大きく、作り手の見えるウォッチメーカーのパイオニアとして、90年代の時計市場においてブームを牽引された功績は絶大でございます。