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2024.03.29

機械式時計市場の変遷(2000年代)

前回に続き、機械式時計市場の変遷についての私見を書かせていただきます。

2000年に入る直前の1999年は業界を揺るがすいわゆる“2000年問題”が勃発しておりました。設定による判別不可の為、コンピューターがリセットされてしまうという大きな問題とされておりました。

そもそも我々の生きる世界はグレゴリオ暦とは、機械式時計機構とも非常に密接な関係がございますので、解説させていただきますと太陽暦として用いられるグレゴリオ暦は、

1年365日にして、400年間に97回だけ1年を366日とする暦です。

地球が太陽の周りをを一周するには、約365,24219日掛かります。グレゴリオ暦では、

1年の平均日数が、この日数に近くなるように閏年を入れます。

その閏年は以下の様に決められています。

①西暦年号が4で割り切れる年を閏年とする。

②例外として、西暦年号が100で割り切れて400で割り切れない年は平年とする。

通常、閏年の周期は4年毎になりますが、100年毎には平年となるところ、

2000年は400年に一度の100でも400でも割り切れる稀有な閏年という事になりまして、

機械式時計機構に話しを戻しますと、超複雑機構である永久カレンダー機構においては、

全てのカレンダー機構である年、月、曜日、日付が4年周期の閏年をも判別して、

プログラムされて、設計組み立てられて、一切の修正不要の超絶機構でございますが、

例外が100年に1度は修正が必要とされておりましたが、2000年は閏年でございましたので、修正不要でございました。

腕時計の歴史が1900年初頭で、その初期段階で既に永久カレンダー搭載機は製造されておりましたので、実質的には次の2100年まで修正不要でございましたので、約200年は動き続ける限りは修正が不要ということでございました。

現世代の人類はほぼ生きておりませんので、未来人の為の人間が生み出した叡智の最高峰とも言うべき、遺産としてこれからも生き続けていくことになりますね。

とても壮大なロマンを感じております。

この記念すべきミレニアムの年にリリースされたのは、

まずパテックフィリップのRef.5100 10日巻きの限定モデルでございます。

マンタレイの異名を持つ角形のコンプリケーションでございますが、

このRef.5100を代表する様に当時の時計業界のトレンドはロングパワーリザーブ機構でございました。90年代までの機械式時計のゼンマイ持続時間は平均的に手巻きで約40時間前後、自動巻きで約48時間前後といった様に約2日間稼動するというのが定番でございましたが、各社3日巻き、7日巻き、8日巻き、10日巻き、14日巻きという様に長時間を競うように新モデルがリリースされました。本来の主ゼンマイである香箱を2重、3重、もしくは4重と増やしていた結果、ケースも巨大化していき、いわゆる〝デカ厚〟ブームに繋がって行きました。機械構造的にはとても技術レベルは高く意義のある技術革新ではございましたが、売り手側の悩みは常に尋常ではない手巻き回数を必要としておりましたので、

指の巻き胼胝に悩まされておりました(笑)

そして当初は2針や3針のシンプルモデルから展開されていたロングパワーリザーブモデルもさらに複雑化していきまして、各種カレンダー機構やクロノグラフ搭載のコンプリケーションや永久カレンダー、トゥールビヨン、ミニッツリピーター搭載機のグランドコンプリケーションに派生していきまして、さらなる巨大化と共に複雑化するとゼンマイから発生するトルク量も必要と致しますので、8日巻きや10日巻きの超複雑機構搭載機は、

巻き上げ時の指に掛かるテンションも高く、より一層、私の人差し指と中指は悲鳴を上げておりました(笑)

当時、生み出された名機といえば、ロングパワーリザーブ機構の筆頭メーカーである

ジャガールクルトのジャイロトゥールビヨン1でございます。

このジャイロトゥールビヨン1は各社のトゥールビヨン戦争に終止符を打った時計史に残る傑作でもございます。2004年に発表された本モデルは、ジャイロ=球体という様に

これまでの平面トゥールビヨンから、高速と低速の2軸で軽量のアルミニウムを採用した特殊な肉抜きキャリッジ構造による立体回転で、その回転軌道は常に異なる向きに回転する様に設計されておりまして、宇宙空間を飛来するスペースシャトルから着想を得ております。その2軸立体トゥールビヨンに永久カレンダーを組み込んで、8日巻きにした

超モンスターモデルでございました。

この8日巻きの鬼ジャガールクルトから、従来の巻き上げ量の半分で巻き上がる親切設計の8日巻きレベルソがリリースされたお陰で、私の手巻き胼胝問題は解決されました(笑)

このロングパワーリザーブ戦争はさらにA.ランゲ&ゾーネによる31日巻きがリリースされて、終わりかと思いきや2013年にHUBLOTのラ・フェラーリの約50日巻きが出ました。

流石にこの2モデルは巻き上げ専用器具での巻き上げでしたので、快適ではございました。しかし最早、いつ巻き上げたのかも忘れてしまうレベルの巻き上げ量は、

オーバースペックとなり、終止符が打たれました。

しかし、この技術革新においては機械式時計の永遠のテーマである安定したトルク量をいかに維持して駆動させる事が出来るかという裏テーマに対して、

上記のA.ランゲ&ゾーネによる31は、初動時からゼンマイが解け切る停止直前までのどのタイミングにおいてもトルク量を一定に保つルモントワール機構を搭載して見事に一発回答してみせました。

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